31日。昨日とはうってかわってあたたかい秋の青空、気持ちが良い。今朝は休講なのでのろのろと昼の少し前に大学へ、図書館で多少文献を見た後、食事。図書館のご自由にお持ち帰りくださいコーナーに Schrieffer の「超伝導」と Kittel の「ISSP」4th ed. があったので有難く貰って帰る。
昼からは実験。一度神保町の新刊書店までトランジスタ技術 Special の パワー MOS の使い方なる本を買いに行く。丁度秋の古本祭りで賑わっていた。
戻ってくると実験パートナーいわく、院の学生証の写真の提出は今日までだがもう済ませたか、と。ゆっくり急ぎながら家まで台紙と入試のときの写真の余りを取りに戻る。何とか間に合ってよかった。
そのあと買ってきた本で勉強など、実験室の東向きの窓からほぼ満ちた月が昇ってくるのが見える。パートナーと U†とメトロで夕食、結局10時くらいまで大学に居た。帰るころには月は空の高いところに懸かっていた。
30日。朝起きて外に出ると寒いと感じた。こんなことはこの秋はじめてだ。帰りに食事にゆくときすこし雨がぱらつくが、結局本降りには至らず。家に帰ると部屋の温度計の浮きのふたつめが上がっている。
研究室のS助手の買ってきた北京土産の羊羹を食べていると、ふつうの以外に杏羹や羊肝羹などがあるので不思議に思って少し調べてみるが、どうも我々の知っている羊羹なるものは日本で江戸期に成立したものだと思われ、いったいこの北京土産は何なのかという疑義は深まるばかりだ。真相はいかに。
夕食時ぶーちゃんと航空の某と一緒になる。ぶーちゃんに散々今僕らの作っている回路のことでご託宣頂く。どうもありがとう。
帰りに学校から随分離れた交差点で別の道から来たNに偶然逢った。
29日。雨上がりの空は青が透き通っていて、雲のかたちがいきいきと激しい。夜になると月が輝いている。
日付が変わってからは、いい加減ひもの勉強を始めねばならぬかとしばらく思い悩む。寝て起きて、昼から学校へ行く。とりあえず懸案の論文をコピーだけして、宇宙論のレポートのため資料探しをする。なんでも惑星名および七曜の起源とその洋の東西を問わず共通である背景を論ぜよとか、まずネット上で検索するも互いに孫引きしたよな似た情報ばかり、かつ参考文献を明記しないので話にならん。
5時半から談話会、 internet 上のページの繋がり具合や actors の共演具合、スウェーデンの男女の性的関係のつながり具合や細胞内の化学反応の原料生成物関係などを点を線で繋いだグラフにして、k 本の辺が集まっている確率を P(k) と書くと普遍的に P(k)∝k-γ 但し γは 2〜3 という冪の振る舞いを示すという話。そのモデルとしては、すでにある network に一つ点を付け加える際に、特定の既にある点に結ぶ確率を、結ぶ相手が既に結ばれている線の数に比例するようにしてすこしずつ成長させてゆく、と k-3 の振る舞いはすぐ導けるとか。田舎には父の趣味で都市間のネットワーク分析の本がざらざらあったように記憶しているが、あまり真面目に読んだ記憶が無い。次に帰省したときにあたってみようかと思う。
さてNと夕食、その後は総合図書館にこもってさらに文献を漁る。しかしその文献間でも互いに齟齬をきたしている主張もあって、それぞれの引用している原典をあたらねば如何ともし難い問題もあり。総合図書館の天文学の棚には宇宙関連の本と暦関連の本が雑多に混交して並んでいるのは歴史を物語っていて面白い。
その過程で Fred Hoyle 著の「ストーンヘンジ」(みすず) なる本を発見す。古代人の壮大な天文学を知った。非常に良い本だ。似たような話に、今月号のパリティの甲骨文字にアンタレスの横に出た超新星の記録の話。時代はかなり下るが平安かそこらの京都の天文方の記録に夜の日食を計算して書いてある話など。
おとといの話だが、代々木の紀伊国屋を出て対岸へ渡る橋を歩いていると、すこし前のほうからピンク色の風船が空にあがりはじめた。子供が手から離してしまったのだろう、しばらく眺めているとその風船はするするとJR本社ビルのわきを駆け上がって、北のほうへ流れていった。
28日。雨。しとしととよく降る。昨日買った九州の早生蜜柑をひたすら食べる。なかなか甘い。航空の某から電話があってつい先ほどまで無駄話を2時間した。
朝永さんの全集が再版になったようだと前の月曜に気付いたのだが、書くのをすっかり忘れていた。箱と装丁がちゃちになって不満だ。多少立ち読みす。鼎談の記録など、弟子を前にした元気な朝永先生の様子ははじめて読んだように思う。若いものに何かひとことありませんかと問われて、まず年寄りの言うことを聞かないべきだ。だから君たちが聞かないというならいろいろ話してもいいが、それなら言っても言わなくても同じだから言わないと答える、なかなか秀逸だ。
牛乳は気にせず飲んでいたのだが、実験のパートナー曰く、危険部位は流通を禁止してもそれほど産業界が困らないところばかりだからきっと政府のでまかせだろうと。むかしから何度も聞かされた、祖母の親戚が何か願掛けをする際に自分の滅多に食べないアカエイを絶ったという話を思い出した。
昨日のゲージ場云々は全く勘違いだ。まず chiral anomaly と gauge anomaly の混乱がある。それを除いたとしても、そんなことをすると cluster しなくなるから駄目だと当然 Weinberg に crystal clear に書いてある。全く勉強不足だ。
27日。秋晴れ。12時ころ起きて洗濯、ふとん干し。昼ごはんにラーメンを作った。麺を二玉ゆでたのでかなりお腹が一杯になった。
夕方新宿某所へ久しぶりに遊びに行く。数学科の先輩が北海道の stringy な研究会に行くとか、僕はその先輩は p 進な人だと思っていたのでいつのまに紐に化けたのか、と思ったが、何の話をするのかと尋ねると、前にも彼から聞いたことのある内容である。まあ、確かに stringy と言えばそうですけど…
ゲージ変換に量子異常があっても、許すゲージ場をインスタントンが無いものに限れば無矛盾になるのではないか、と思うがどうだろう。
今日はなにもしない一日だった。
26日。最近あまりに一週間が短い。昨日の朝の話ではあるが、踏切をわたって数理科の横まで来ると、寮との間の暗い木立からひらひらと風に葉が舞いだして秋の日を反射していた。都心の秋の近況である。
今日の宇宙論は Alpha-Bethe-Gamow の論文では Bethe の名前は αβγと揃える為 Gamow が勝手に追加しただけだという話。僕はこういうどうでもいい話は大好きだが、どうも身の周りにも不快に感じているひとが散見されるので、人の感じ方は様々であるなあ。
今日は実験日では無いが、とりあえず部品を注文する。古い回路図に従って組もうとしているので、店の人にそもそもこういうディスクリート部品は最近使わないので手に入るかどうか、と言われる。発振機の部分を考え直す必要もあるかもしれない。
Clifford 代数と周期性、指数定理に関しては Lawson-Michelsohn の "Spin Geometry" が詳しい。Fibre bundle に関しては GTM20 が現代的で詳しい。どうせ今は真面目に読まないしまた難しくて読めないのであるが、最近ときどき
こういう話は昔聞いたことがあるな、と思ってこの備忘録を遡ってみても「こういう話を聞いた」とは書いてあるが典拠が書いておらず役に立たないという経験をするのでたまたま手に取った結果を記しておく次第だ。
さて5時ころ素研に行く。Y 教授が現れてこういうレポート問題を3年生に出したのだが君はどう思うか。と問われてD2のひとと一緒に悩んだ。曰く、
ふたつのコインを投げたときに表表:表裏:裏裏なる確率は 1:2:1 だが、量子力学的にボソンとして扱うと 1:1:1 だとよくいう。さてふたつのコインの構造が全く同じだったとすると、量子力学的に扱っても良かろう。その場合いったいなにがどうなるのか?半時間ぐらい議論した結果
古典的状況では場所も一粒子状態のラベルにできる。よって一粒子状態は右表、右裏、左表、左裏の4通りになる。こうするとボソンとして扱ってもきちんと 1:2:1 が出る。右と左のトンネルによる混ざりが指数的に抑えられているということか。ということになったが、どうだろうか。(3年生の方もごらんになっている可能性があるので、文字色を白にしました。)
25日。頑張って日記を書くことに変更する。空は雲が形をなすほどではないがうすく曇っていたように思う。
朝は駒場へFせんせいの Floer cohomology の話を聞きに、昼から本郷に移動して実験。朝の講義の半分くらいは物理学科の人間は疾うに知っていることなので、残りの半分に頭を集中できて有難い。さて実験はわれわれは別段拘束されてやっているのではなく、全くまたーりとしているのではあるが、パートナーが4時ころ来て今までソフトボールをやっていたと平然と言われると何とも不思議な気分だ。まあ、僕とて駒場から移動して食事を取っていると研究室にくるのは2時ころになるから50歩100歩だが…
先週の話だが、Fさんが講義中に「物理の本を読んでいると
- バンドルの自明化
- 貼りあわせ関数
- バンドル同型の作用
このエレベーターは何を最小化しているんですかねえ。少なくとも、時間ではない。これまた名言だ。
さて食堂へ7時半ころ行くとほかの研究室の野郎どもが既に5人集まって何故かお国自慢を戦わせているところに会う。8時10分ころ食堂が閉まるので追いたたされるように店を出る、家に帰るがすこぶる眠く、気がついたら日付が変わっていたというわけじゃ。
25日。あまりに眠いので詳細は明日。
24日。少しく雲。夕焼けの中神保町までトラ技のバックナンバーを立ち読みに行った以外は、今日も建物の中に閉じこもっていた。
Saturating type inductors のことを日本では伝統的に「リゾヌバ」と言うらしいが、怪しい響きだ。本屋でその単語を見つけて研究室まで戻る間、どこかの昔話ではないがずっとリゾヌバリゾヌバと唱えていた。語源をご存知の方はいらっしゃらないだろうか。
今日の実験の主たる成果は、部屋のWindows マシンからネットワークプリンタが使えるようにしたことだ。僕らが口座を貰うはずだった Linux マシンが電源が入らなくなったので仕方なくそいつを使っていたのだが、プリンタがないと余りに不便なので。Windows の言う「ネットワークプリンタ」というのは一般の TCP/IP ネットワークではなく Microsoft しか理解せんようわからん「ネットワーク」にぶら下がったものであるらしく、プリンタの所在が見えなかったのだ。結局は、 Microsoft にしてみれば「ローカル」なプリンタだが、渡ったデータを実際のプリンタのまで TCP/IP で転送するようなドライバを導入して解決さす。プリンタの説明書を隅々まで読むと書いてあった。S助手にことのほか喜ばれてKせんせのPCにも同様の作業をす。
7時半に実験を切り上げて帰るが、どうも早すぎるように思って後ろめたい。家に帰って日経の夕刊を見ると一面の見出しにでかでかと「狂牛病対策に1554憶(ママ)円」と誤植がある。ジョークのつもりか。
一昨日書いたのはやはり自己矛盾していた。自分と相手がなにかある属性を共有しているからといって何故相手のことを気にしなければならぬか、という主張を突き詰めれば、僕が日本のマスコミに文句を言う筋合いも無いはずだ。
23日。日付が変わったころはまた雨が激しく降っていたが、目が覚めるとあきれるような青空。といっても一日中建物の中にこもっていたのであるが。
朝のY教授の講義は何が主張されて何が主張されなかったのか殆どわからなかった。Axion のポテンシャルの底が a=0 になるもっともいい加減な理由(Vafa-Witten, PRL53 535(1984))が余りに馬鹿らしくて講義中に笑ってしまった。曰く
exp(-V(a)) = ∫[dA] Det (D+m) exp( -∫d4x FF + iFF~)但し計量は Euclidean として、 D の固有値は純虚が共役に関して対になって出てくるから Det D+m が正になることを使った。
<∫[dA] Det (D+m) | exp( -∫d4x FF + iFF~) |
=∫[dA] Det (D+m) exp( -∫d4x FF ) = exp(-V(0)).
実験はひたすら部品の型番調べ。途中で U† と食事に行ったりして、何故かすぐに夜の9時になる。とりあえず今日は切り上げて素粒子研のサロン(お茶の場所)に顔を出すとまだうじゃうじゃ居る。どうなっているのだ。家に帰ってくると東の空に冬の星たちがもう輝いているのが見える。
またどうでもいい話だが、3次元で 4-fermi 相互作用が繰り込めるという話(Rosenstein et.al. PRL62, 1433(1989)) がその10年以上前のLes Houches Session XXVIII の Gross の講義(1975)の remark として出ているのを見つけた。
22日。朝はそんなことは無かった筈だが、昼図書館から出てくると雨。徐々に激しくなって、夕食を終えて家に帰るころには大雨だ。今は多少おさまっている。随分濡れたのでかえってすぐ熱い風呂に入る。さて借りてきた B. Lee の講義録を読もうとするが、あまりの気持ちよさに考えるふりをしながら眠ってしまう。1時間後くらいに目をひらいたときには BRST について何かすばらしい真理をつかんだように思っていたが、徐々に覚醒するにつれてそれは雲散霧消した。ああ勿体無い。
院試の過去問を一学年下の某に引き渡す。
数日前の話だが、野依さんと小泉首相が会って首相は「若いのの励みになるだろう」と言ったそうだ。確かに尊敬できる偉大な先達というのは有難く得がたいものではあるが、その人が自分と同国民、もしくは同母語使用者である必要は全く無いように思う。自国のチームが勝ったとかで騒ぐのを、科学にまで持ち込んで貰いたくは無い。さて野依氏は灘の出身で、後輩がテレビのインタビューに出たらしい。僕が聞いた一例では、「脳みそをわけてほしい」と言ったとか、自分自身のことを中心に置いている点でこの返答はまあ良かったほうであろう。ここでもし同じ学校で光栄だ、などと答えていたものなら、と反駁を考えるが余りに無意味な言明のため思いつかぬ。さて、こんなことを書くのも捻じ曲がった同感情のなせるわざだという非難はあたらないと信じているのだが…
僕は何故経路積分するのか。それが問題だ。
21日。空一面に秋の雲が浮いている。青空はところどころ覗ける程度。洗濯、掃き掃除、髭剃りなど。おそらく一年ぶりだと思うが、刃を換えるとあまりの剃り味のよさに驚く。
夕方からピアノでも弾くか、と大学に行く。だだっぴろいホールに2台置いてあるのだが、今日は隣のピアノで歌って弾いてるお兄さんがいた。大学で弾くのももう長いから、隣のピアノの音を無視して練習できなくはない。といっても歌は流石に耳につい入ってしまって集中できない。あきらめてしばらくその人のを聞いた後そそくさと退散す。
ついでに図書館の 10base-T の末端に繋いで Ghostscript/GSview を3年まえくらいのから最新版へ更新するが、懸案の landscape にすると anti-aliasing が効かない問題は解決せず。dviout の hyperjump が戻れない問題も変わっていないらしく、作者に注文するかなあ、と考えるのであった。
antifield はBRS変換先の複合演算子の定義に兎も角必要だからまあ良いとしても、 反正準変換の物理的意義がなにもわからない。非常に限られた場合では結合定数および場の強さのくりこみに相当するという命題を見たが、証明があまりにその状況の特殊性を使っている(ように僕には思える)ため偶然なのか一般的な性質なのか判らない。えてして原論文がもっとも判りやすいと言うし、このあたりは原論文にあたっていないので明日でも見てみるか。
非常に安直で俗で愚劣で申し訳ないが、まあ引用回数の多い論文の内容は知っていても悪くはなかろうと思って spires で500回以上 cite された論文を列挙させてみたら、既に 400 通ちかくある。鬱だ。
20日。12時間睡眠をとったので起きてしばらくは頗る機嫌が良かった。暗くなった西の空に細い月が不安げに懸かっているのを見た。乱視が進んでいる。過去問の編集の引継ぎのための整理以外何もしない一日であった。遅ればせながらマットレスを出した。
19日。みごとな秋晴れだ。夕刻の空のグラデーションが澄みきっていること。
今日の宇宙論の講義は人間原理と宇宙原理のふたつの相反する原理について。
総合図書館へ野暮用で行ったついでにふと古い「キリストにならいて」でも借りてみる。しかし全ての議論が少数の原理に帰着されるので、論証は兎も角その原理を受け入れない僕には理解できない。滞独中の朝永さんはどうだったのだろうか、と思うがすぐに、問題は原理を受け入れるか受け入れないかにあったのだ、とあたりまえの結論に至る。
18日。雨が少しずつあがってゆく一日。実験室の窓から外を眺めると、灰白色の背景の下の低いところに雲の切れ端がすこし濃く浮いているのが見えた。家に戻るころには黒い夜空が所々透けて見えるようになる。
朝は駒場へ。それなのにいつものつもりで目覚め、普通に向かったのでは明らかに遅刻だ。そこで百数十円払って金で時間を買う。講義室へ着いて椅子に座ると先生もリュックを背負って手に傘を持って部屋に入ってくる。おもむろに講義がはじまる。x+yi=f(teiθ) が正則関数であるという方程式は、 S1 上定義された関数 f(θ) たちに曲線の長さで計量を入れ、「囲む面積」という汎関数の最急降下線の方程式を考えたものと同じになるという話。t が降下線のパラメタ。勿論これが主要な結果だというのではなく、ある一例だが、それ自身面白い remark だと思ったので。
本郷に戻る。型番と特性とにらめっこして素子を選んでサイズを調べる。
家に帰っていろいろ読むものがあるはずだったが、思わず午睡。日記を書かねばという思いで10分前にがんばって目を覚ます。その直前に見ていたイメージを書こう。生垣に囲まれた駐車場。車が止まって高校のときの数学の先生(たがやさん)が降りてくる。これからは君もいろいろな人に顔を合わす羽目になるだろうが、挨拶されてもみな無視してやるのが面白いだろうな。いえしかし、(しばらく何を答えたか記憶定かならず)こうやってここでこそこそしている次第で…
17日。昨晩からしとしとと雨が降る。いや、しとしとというほどでも無い。傘のいるかいらぬかという程度だ。しかしひねもす雨が降る。
実験で作る回路は基本的には回路図が既にあるのだが、繋ぐフォトマルの特性が異なるので部品の定数をいじらねばならない。中学のころに先輩や友人がいろいろ作っているのを見たり、半田付けしたりはした経験はあるが、自分で回路を考えたことがなかったので、なかなか新鮮だ。
僕がコピーする論文は大抵有名どころだから既に何度も開かれていて、頁の付け根が弱っていることが多い。今日もまた一枚ひらひらと離れてしまって、図書館のお姉さんに済みませんと頭を下げる。しかし S. Coleman の論文はどれを読んでも洒脱で、できれば見習いたいものだ。僕は彼を尊敬する。
夕食時に隣の友人が「秋だね」と言った。僕は「諦め」と聞き違えて意味が判らず問い返した。心の底に暗いものがあるのだろうかと思った。
16日。いわし雲をみただろうか。どうも建物の中に夜までこもっていたため身の回りの自然がどうであったか印象にない。踏み荒らされて砕けた銀杏の実のにおい。
朝のY教授の講義は θ 角のもとで中性子の電気双極子モーメントを計算して実験から θ に制限をつける話。θ を付け加えるのは chiral isorotation になるので、中性子の異常磁気モーメントの quark mass に起因する項からくる部分∝mπ2の θ 倍になる。講義ノートをTeXで清書する元気はないので原論文(Crewther et.al. Phys. Lett. B88 123)を挙げておく。
午後は実験。使うダイオードとコンデンサの耐圧等の計算。
地下で夕食をとっていると航空の某あらわれて、相変わらず家庭教師先の不満を愚痴る。この執念深さは見事だ。
気休めでも運動の量を増やそうと数日前から自転車の変速ギアを重くしたのだが、あっけなく慣れた。
15日。随分涼しくなった。気持ちよい秋の日。ようやく指導教官が海外遠征から帰ってきたので挨拶に出かける。
ついでにその後の素研のセミナーのうしろに座って話を聞く。QCD は θ がノンゼロなら真空が幾つもあってそれに伴うドメイン壁を考えるとその表面に反バリオン数が溜まって宇宙に物質が生ずる、とかいう話。さて「真空が幾つもあって」というところは Witten が引用されているのだが、近年流行の紐に埋め込んで議論するやつでまるで判らない。大体ひもがパラメタを持たない究極の理論だと思う思想と、適切な背景と配置を考えて極限を取れば様々な場の理論を含むという使い方は相反すると思うがどうか。
夕食時に一年下のうちの学科の某と偶然ご一緒する。ベルガマスク組曲の弾き方のコツを伺ったり、ピアノ談義を拝聴す。生協で中古CDセールをやっていたので、つい Satie のピアノ曲集を買う。全集でないのが痛い。家に向かうころにはすっかり日も暮れて、もう時節的におしまいのはずのおしろいばなの甘い香りがした。
さて勿論赤外発散に関しても Weinberg 先生の crystal clear な解説が第1巻にあるのだった。13章4節は同語反復に思えるが。まあしかし正準形式だから、経路積分で理解したまえ。
14日。朝は快晴、徐々に雲が出る。お茶の葉っぱがなくなったので池袋の地下までわざわざ買いに出かけた。ついでに淳久堂を冷やかす。物理の棚を見ても面白く感じない。春秋社のドビュッシーのピアノ曲全集を手に取りかけるが、先週のまるでピアノのひまのない忙しさを考えれば、今弾いている曲を維持するので精一杯だ、と棚に戻す。
pythia の説明書やっと目を通し終わる。先学期 KK がやった解析は αs を決定したと言うよりは jetset のアルゴリズムが妥当だと確かめただけに思えるようになった。ラグランジアンを与えると全自動でダイアグラムを描いて断面積まで計算するソフトも例えばKEKで開発されているようだ。この分野も深い。
さてこのあたりは Computer Physics Communication 誌に出版されるのだが、物理学科の図書館ではなく情報のにしかない。それも 1997 年で購読を止めたという、ひどい話だ。兎も角、赤外発散の相殺を理解せねばならぬ。概念的には整理された紫外発散と異なり、摂動論的な記述しか見掛けないが、どうか。
QCDの閉じ込めが dual Meissner 効果なら、叩けば QCD モノポールが見えるか?
13日。昨晩は13時間あまり睡眠す。今日は見事な秋晴れ。先週末の旅行のため溜まっていた洗濯物を片付ける。
昨日なんだかんだ言った割には早速何もせぬ一日であった。夕食後9時ころに眠ってしまったらしく、ふと目の覚めた今いそいで日記を書く次第だ。おやすみなさい。
12日。今日も良い天気。風もあって心地よい一日だ。昨晩は7時間しか眠らなかったため宇宙物理の講義で居眠りしてしまったところ、S 先生に「お、立川君眠いか。」とお叱りを頂きまして、誠に申し訳ない次第で…
昼は久しぶりに何もしない。奨学金のメーリングリストに某ブロードバンド野郎が合宿の写真を 7 Mbyte も流したせいで家の遅い回線では到底読めない。というわけで家に帰ってパソコンを持ってもう一度大学に戻る。遠くの弱者を気にすることが出来るならまずは近くの弱者のことも気に掛けてほしいものだ。
「強い力」は色に働くというが、「弱い力」が働く「荷」を何というかは統一がない。Weak-isospin という人が多いと思う。 't Hooft なぞ weak-colour と言う。今読んでいる説明書では「香り」という言葉を使うようだ。これが良いように僕も思うが、多少既存の「香り」の用法と衝突するのが難点ではある。
Kいわくマイスナー効果は判るが抵抗ゼロは判らんと。当然僕にもUにもわからず、しばらく話をして Schrieffer を見ると、ここにも「ではなぜバンド絶縁体が抵抗ゼロではないのか疑問に思うだろう」とあって驚く。どなたか解説してください。
一日に24時間の倍の時間が欲しい。
11日。雨は止んだ。青空に雲が浮かんでいて、歩くと汗ばむ陽気だ。駒場の古田先生の講義に出たいが本郷に戻ってきた後自転車が無くては不便だ。というわけでいつもどおり区役所の駐輪場を利用す。講義開始は本郷より25分遅れるのを知らず慌ててキャンパスに向かう。
講義紹介にはゲージ理論に関するトピックをとしか書いていなかった。Floer ホモロジーの解説が始まるようだ。今回は TQFTの公理 と モース理論の復習。
本日の実験は引き続き Cockcroft-Walton 高電圧発生器の理解を目指して文献の解読。ZEUS@HERA に使われた実例の回路が梯子の両側から電圧をとっているのが理解できず助手のSさんも含め3人で悩むも解決せず。日が暮れてきたころ空気が悪いといって窓を開けると、隣の旧一号館の屋上が半面水溜りになっているのが見える。樋から流れ出す水が威勢良く地面を叩き、その音がここまで上がってくる。季節も終わったろうにめずらしく油蝉の声がする。
家に帰ってはあいかわらず Pythia の取扱説明を読む。昨日届いた Steenrod を開く暇が無いのが痛い。育英会の奨学金の予約採用申込みが明日までなのはずっと知っていたが、書類を準備しなかったのでどうしようもない。4月に在学採用申込みがあるのでそちらに賭けよう。院の合格通知に貰いたい人は皆予約申込みお願いしますとあったのに悪い奴だ。
10日。朝はそれほどの雨ではなかったが、いまや土砂降りだ。電車で行って正解だった。
実験結果の生データから欲しい物理量を得るには普通は順当に計算すればいいのだろうが、高エネルギー実験では反応が複雑すぎて基礎定数からの実験のシミュレーションは出来ても実験結果から直接さかのぼって計算するわけに行かない。そこで測りたい量をいろいろ振って計算機を走らせてみて、その結果とデータを比較するわけではあるが、パートンのハドロン化など正確にシミュレートできるなぞ到底信じられぬ。というわけで解説書を読もうとするが、頗る厚くて辟易する。
合宿中の話だが、某によると、彼はその友人から僕に「物理学科に行きたいのですが、ある程度実験を真面目にやらないと進級できないでしょうか?」と聞いてくれと言われたらしい。なんという彼らの「暗黙の了解」!
9日。多少雲は広がっているが、晴れと言ってよかろう。朝は M1 の超対称性現象論のゼミを聞くはずが、Y 教授いわくこのレビューは詰まらん。そのかわり昔やった axion の話をしてやろう。と突如講義に切り替わる。また、午後6時から無意味に飲むと突如決定す。
昼食後は実験、4時間ぶっとおしで K 先生 LEP で見える物理の解説、何を解析するか考えどころだ。また多少コックロフト=ウォルトンで光電子増倍管に高電圧を供給する話を議論、サイズを小さく抑える話からなぜかコンゴのタンタル採掘の内戦と絡んだ悲惨な状況に話がうつる。先生も同じ NHK のドキュメンタリーを見たらし。
さて午後6時から11時まで研究室で飲む。イタリア人のスタッフがいるので途中から皆英語になる。酔った Y 教授がまくしたてるのを面白く聞いた。
ここ数日の日記を書いておこう。まず6日。昼から柏にある千葉さわやか県民プラザで物性研の公開講演会に行く。通訳なしにも拘らず非物理の聴衆が集まっていたらしく、ラフリン先生の講演のあと質疑応答の時間に
物質は自発的に秩序を生み出す、と言ったが神が物質を秩序立てる、と言い換えてよいかなど哲学的議論が進行する。というわけで講演会おしまいまで僕は質問を差し控えて、あとで先生を捕まえて前から懸案だった質問をした。先生は講演で物性と時空を比較なさいましたけど、物性では impurities の詳細によらない秩序が生じますが、時空は非常に pure に見えますがどうでしょうか。先生いわく pure に見えるかどうかはエネルギースケールによる。超伝導体だって測り方によれば非常に pure に見える。
U†と某に案内してもらって物性研の馬鹿でかい建物を眺めたあと、バスで駅前まで戻って U†と和幸でカツ丼を食う。会話を楽しんでいると予定より柏をたつのが20分遅れる。御殿場線は本数が少ないので、乗り換えを1時間待つ羽目になった。
本来この合宿は6日の昼からなのだが、駄々をこねて遅れていったわけだ。初日は飲む。二日目(7日)は忍野八海と富士五合目散策。この日は飲まない。三日目は4年生ということでお別れスピーチ等。小田急で新宿まで、某所に寄って経済学部の先輩と夕食。帰宅。
8日。帰ってきたのですが眠い。よって詳細は明日以降、ということで。
10月5日。雲が薄く空を覆っている。
朝は S 助教授の宇宙物理の講義の第一回、何を思ったか中国の陰陽五行説から話を解き始める。先生が「甲乙の甲の訓読みは知らんだろう」というので「かのえ」と答えて教室の失笑を買う。また先生いわく、私のやっていることは何の役にも立たないが、しかし Weinberg が加速器建設がわが国の国防上何の利益ありや、との問に米国を守るに値する国にす、と屁理屈をこねたのを引用す。これについてもう一段屁理屈を重ねてみるに、すると私が科学をすることは自衛隊容認に繋がり、僕の内部に矛盾を惹起するわけじゃ。
昼は図書館で待ち合わせをして航空の某と議論。というのは静粛を第一とする図書館ではいけない事だということをすっかり忘れていて近くのオジサマに怒られる。喫煙所ではないが、議論しても良い場所を設置してもいいのではないかとふと思う。
夕方は談話会、アクシオン望遠鏡の話。Y 先生によると、
小林益川が正しいとなると、そこに10-4のCPの破れがあるのに、中性子の電気2重極子の測定では CP の破れは 10-9 以下だと出ている。これは何かがダイナミカルにCPの破れを回復していると考えざるを得ない。ということで、近年ますます問題なのだそうだ。
今日は誕生日だ、ということでこの一年を振り返ってみるも、精力的に文献漁りはしたが何ら理解が深まったわけでは無く、また何か自ら考えて何か得られたかというと当然そんなことも無く、学問的には取り立てて意味の無いものであった。大学に入ったころは勉強をさらに積むとともに徐々に脳の処理速度も上がり、適切な年齢になると論文なんてちゃんちゃら生産できるようになるものだと無邪気に思っていたが、どうも単に碌でもない耳学問が積みあがるだけで何ら進歩はないようである。根本的に態度を見直すべきかと思う。
所用で明日あさってと日記を更新しませんが、ご容赦願います。
10月4日。昨日に引き続き、徐々に雲が増える。
実験といってもとりあえず文献を読んでお勉強である。途中で先生が壊れたマウスを修理できないか確かめに実験室に来る。忙しいのやら暇なのやら…
その後素研に行き、ゼミで使う論文をプリンタで印刷させてくれないか頼んでみる。自動両面印刷が出来、おそろしく速い。何故か地下の F 研に言って STM でグラファイト表面の原子を一個一個見せてもらう。
さて建物の外へ出るとすっかり日は落ちて、おまけに雨がぱらついている。数人で食事ののち、おそるおそる外をうかがうと一度降った形跡はあるがあがっていて運がよかった。家の近くでまたぱらつきだすが、結局本降りには至らず。
10月3日。秋になって晴れた日に自転車を漕いでいると、まわりの空気に光が満ちてきたように毎年感じていたのであるが、単に昼間の太陽が低くなったのをそう捉えていたのかも知れぬとふと認識する。夜になるとすこし雲が出て、月がおぼろげに見える。
朝から晩までひとりの先生の話をひたすら聞いていた。逆に言えば、先生今日はひたすら喋っていたわけで、これはびっくりだ。
数人でメトロで夕食を取って立ち上がって歩き出したところ、柱の横の飾り電球に頭をしたたか打ち付ける。不注意ではあったが、今回は椅子と椅子の間が狭く通る道は定まっているので仕方が無い。しかし、周りから羨ましがられる始末で、こちとら痛いというのに…
家に帰ってから去年の理学部便覧を引っ張り出して、今学期何単位とれば卒業できるのか取り敢えず確認してみる。
昨日とはうってかわって見事な秋晴れの10月2日、十六夜の月がすばらしい。
午後から実験のはずが、部屋に行っても先生も助手の方もいない。院生の人に聞くと、今日出掛けてていないみたいだね、とか、明日の朝はその先生の講義があるので、明日こそは。
で、暇なので相方とふたりで素研を冷やかしにゆく。Prof. Yについては前書いたとおり。一方、Prof. F は「パウリとスピン=統計定理」とかいう論文集のようなお話のようなご本を読むらし。先生さんざんこの本はもとの論文のドイツ語を訳してあるのが有難いと繰り返し、Y教授はその発言に、ドイツ語で読ませればいいでしょう、とこちらも何度も突っ込みを入れていた。