31日。今日は本郷へは行かない。朝駒場へ向かつて、とあるやんごとない理由から教養図書館で本を借りる。その後は数理科の図書館で数理物理の文献を気の済むまで、ウン十枚複写す (物理学科は実験にカネを喰われるから図書の揃えは頗る悪いのだ)、10月からこのかた実験に追われて無為に文献を逍遥する機会が持てなかつた。随分久しぶりに清新な空気を胸いっぱい呼吸した気分だ。埃の積もつたと形容されがちな図書館像からはかけ離れた表現であるが。
さて太陽と青天そして流れる雲にさそわれていつもの道を新宿まで歩く。歩きながらこんなことを考えた。
(略)
代々木公園の小田急がわを参宮橋交差点へ上っていると、僕と同様このところの陽光に騙されたのだろう、桜並木の一本が季節外れにも八分咲きになつているのを見る。
新宿で数学科のEと談笑す、夕食へ行つて帰る。
昨日のこと。家に帰ろうと僕の根城としている建物を出ようとすると、見知らぬ上品そうな老婦人がふたり扉を開けて入ってこようとする、9階に病棟はありましょうか、というのだ。なんでも手術した知人を見舞いに来たらしく、それでいてどの建物かは詳しく聞いてこなかったらしく、ただ、せいの高そうな建物に闇雲に入ってみようとしたのだ、バスの終点からほど近いこの建物に。そのふたりはきっとこのキャンパスのなかは皆病院だと思っているのだろう、僕はそのふたりをほんものの病院まで連れて行った、うまくその病室が見つかっていれば良いのだが。
30日。夕焼けだねえ…、ともはや描写を諦めてみる。
今日は昨日みつけたスイッチングノイズを始末すべく分解して調整す。ノイズの振幅は半分くらいになったが、それ以上はなかなか難しい。
とあるやんごとない理由で総合図書館の書庫にはじめて入ってみるが、開架と違い大勢で入れば底が抜けてしまいそうな床である。電灯も誰かが既に入ったところ以外は消えているし。
29日。ちじれた雲が少し出るようになったが、総じて良い天気で過ごしやすい。 実験室からの眺めの良いこと。
とは言え今日は実験せずレポートを書いていた。文献を参照せねばならぬが、こういうご時世だからネットから論文を取ってくれば済む。よって図書館に籠もる必要は無いが、とは言えまだ我が家は broad band ではないので家で書くわけにも行かぬ。端末を学校へかついで行って実験室の ether に繋ぐ。途中で教授が様子を見にきたので実験の首尾を自慢す。ついでに出力信号にのっていた謎のノイズの原因を特定す。
帰り道は頗る風が寒かった。
四食めと称してご飯を2膳ばかり納豆と食べる。
28日。随分ひさしぶりに徹夜してしまつた。朝6時に寝て12時に起きる。途中8時に集団登校す学童の声に一度目を覚ますが。
一日よく晴れて気分が良い。夜は昨日と同じ表現になつて拙いが矢張冬の一等星達も月には及ばぬかと言う風情、もうかなり月は春のほうへ動いているけれども。
我々の今学期のおままごとは見えたパルスを軽くスケッチして終了。デジタルのオシロスコープを導入す、これは画面の明るさが線の走査のはやさに拠らないのが何よりすぐれものだ。波形をフロッピーに csv で保存することもできる。
久々に論文コピーの一日を送った。
さて、昼食時にひと月ぶりくらいに会ったS氏曰く、立川さんちょっと不健康に痩せたんじゃないですか、と。いつも顔をあわせている連中は何も言わぬが、徐々に変わつていくのは気付きにくいのだろ。どうも年末年始の胃弱がよくなかつたらしいが、先週の頭くらいからは胃の調子も快復した、今さんざん太ろうと食べに食べているところだ。
27日。朝はまだ雨が残っていた。出かける頃には雨も止んで、ホールの前で開場を待っているあいだはビルの谷間から空を望めば一面の透き通った青空。バルトークの戦時中の曲だから聞いていて重かった。
さてホールから出てくると日も傾き、空には雲がまた出ている、と見る間に空模様がずんずん変わってゆく。風が速い。夜になると空にはほぼ満ちた月が冬の星空を圧倒している。
とあるやんごとない理由によって明日の朝食にシュガーデニッシュなるものを買ってくる。すこし調べてみると、デンマークではこのパンはヴィエナブロ(ウィーン風の)と言うらしい。サツマイモが薩摩ではカライモというようなものだろ。
26日。今朝はすこしだけ早く目が覚めるが、いつもと違って部屋に朝の光が差し込まない。外をみれば雲が空を覆っている。
折角の土曜日なので昼までまた惰眠を貪る。雲行きは徐々にあやしくなっているようだが明日の昼間はお出かけなので如何ともしがたく、洗濯など。乾燥機を使う。
またちょっと蜜柑が安くなったようだ。注意してみれば、スーパーとの行き帰りの間にも梅の花のあること。
夜になると雨。あめのおとがきこえる あめがふっていたのだ というのは、誰の詩だったか。高校のときに合唱で歌った。
24日。今日も晴れ。夜は寒い。
東大オーケストラの演奏会がこの日曜にあるので、オケの知人にチケットを一枚売ってもらった。
昼は実験。とうとう回路が望みの性能を発揮したので、フォトマルにつなぐ。ミュオンによるパルスが見事に見えた。成功だ。
談話会。BESS 実験の話。気球で飛ばした検出器が落ちてきたのを深い森にわけいって回収しに行く探検隊のビデオを見た。
24日。今朝は今学期の駒場の講義の最終回、初回に先生の言った講義予定の前置きすら終わらなかったけれど。見ると数理の建物の前の梅園もちらほらと花をつけているのであった。移動の車窓からも満開の紅梅など見える、春もすぐそこまで来ているのだろうか。それとも単に暖冬なだけだろうか。
フォトマルにつなげようと助手に相談すると、封じたあとどうやって電圧調整するんでしょうねえ、ととぼけた話になって、急遽基盤上の可変抵抗を引っこ抜いて長くにょろにょろと線を延ばして外部に持ってくることに。ついでだから電圧分圧器を回路に追加、直接出力電圧を監視できるようになった。総じて今日は上手く行った。
今日もその梅の香りを楽しんで家に帰ってくる。
23日。今日は一日雲ひとつ無い快晴。だが夜は寒い。自転車で家まで走ると身を切るような風。
朝学校に行く自転車の上、ふとよい香りがする。振り向くと、ある家の狭い庭に満開の紅梅が一本あるのであった。というわけで4日に東京に戻る新幹線の中で読んだ WEDGE に載っていた万葉集の歌をひいてみよう。
梅の花 香をかぐわしみ とおけとも 心もしのに 君をしぞ思ふ (万葉集巻20 4050)しかし、まだかなり時期が早いと思う。
ようやっと回路は完成、組み立てあがって動作を確認するも文句なし。さてとうとう明日フォトマルにつなげることになるぞ。
22日。今日は晴れた。朝から徐々に雲が減り、夜には空に冬の一等星が勢ぞろいだ。月はもう上弦に。
今日は素研の修士論文の発表練習会ということで、実験を抜け出してずっとそれを聞いていた。
21日。昨日日記を書いた頃から降り始め、朝は案外の雨。電車に乗って行く。
昼ごろピアノを練習しようとホールへ行くと、丁度一年下の名手が現れたので持参した楽譜を見せてあれやこれやと見本を弾いて貰う。初見のもあったようで、散々となりで僕が感嘆しているとむこうからクラリネットを持った男性が近づいてきて「初見で弾いたはるんですか?」と関西弁の丁寧語を使う。昨日買ってきたばかりの楽譜があるので、と突然合奏が始まって僕は横に立って譜面をめくった。何でも京都から東京の友人を訪ねて遊びに来たのだとか、むこうもこちらもなかなか得難いひとときであった。
さて僕もそのあと多少練習す。神も鳴りバケツをひっくりかえしたような投げつけるような雨で建物を出る気も無く、案外の時間をそのまま過ごした。
先週の金曜、某が小説十八史略を読んでいるのを後ろの席から発見して各国なりの各国史も面白いぞという話をしたこともあって、懸案の「メロヴィング王朝史話」を借りて帰って読んだ。
帰るころには雨もあがって、雲をすかし月の居場所もわかるよな空であった。随分久しぶりに歩いて帰る。あまりの暖かさにコートを脱いで腕にかける。
20日。いつもどう雲を形容してよいか悩むが、兎に角今日はここ数日と違って、高さ方向にも広がった大きな塊が空を分けているといった様子。
スーパーでポンカンなるものを買う。これまた普通の温州蜜柑とどう違うか書けというのは難しい。実の中の房の中の、液のつまった毛が隣同士でおしあいへしあいして、角ばっているように思う。
最近日記が簡潔になったと言われたが、別段その日やったことと日記に書くことの比が変わったとは思わず。あまり最近活発でなかったのだ。
相変わらず譜読み。ある程度以上の速さで弾かないと旋律のわからない曲なものだから全貌がつかめず落ち着かない。練習あるのみ。
18日。昼は雲が高く流れて、飛行機雲の出やすい天気。夜には晴れて大三角が綺麗だ。月が細く西にかかっていた。
何故自動販売機でもコーヒーと紅茶は種類が沢山あるのにココアは種類が限られているのだろう。
どうもあまり勉強する気にならないので譜読みに励んでいた。
17日。朝は雨だったので駒場の数学科の講義に行くのが面倒だったから自転車はすっかりあきらめて全て電車で過ごす一日。昼からあがってしまったが。
さて動作確認だが、思わぬ失敗でまた回路を半分くらい組みなおすことに。コンデンサの耐圧をこれまでよりあげたかわりに容量が100分の1以下にしていたので、まあ Q=CV からΔQが一定ならリップルが100倍になるわな。というわけ。
14日。去年は案外いまごろよく雪が降っていたような気がするけれど。今日もあたたかかった。ずっとピアノの練習をしていた。
日本では休日であるが、別段 e-print archive が休みになるわけでもなく。Watari-Yanagida の何故世の中素粒子は3世代あるかという論文が出ていたけれど、予備知識が少なすぎて読めない。こう考えるとうまく行く、という論文のようだから、全てを調べつくしてこれでなければならない、というわけでも無いので、ほかのモデルとどう違いが出るかを予言せねばならんのだろう。と卵がいい加減なことを言うと先生お怒りになるかもしれないが、Prof. Yanagida はむしろ君も考えてみろというに違いなかった。
13日。今日は特にこともなし。買い物に行く以外は家でじっとしていた。
12日。朝から大学へ行く。図書館へ行った後、あまりの青天に誘われて桜の木の下でひなたぼっこをしていると、ちいさな子がいれかわり立ちかわり沢山遊びに来て、見ていて微笑ましかった。こうなるとむしろ僕が変質者と思われないかが問題なのであった。あと数日で咲き始めるだろうと思えるようなうららかな一日だった。
さて実家では最近今宮のえべっさんに福を貰いに行ってきたらしく、どうぞ僕たちの上にもおすそ分けがめぐって来ますように。
11日。今日はとても暖かかった。新聞によると春の陽気らしい。
昨日の失敗は、僕が年末年始を挟んで LM2903 の特性を忘れていたことによる勘違いだった。 ふと思い出したので Data sheet を読み直せば解決した。
ポモ的って何?という質問があったのでお答えしておくと、deconstruction(脱構築)というのはポストモダン哲学の用語で、物理屋はポモには辟易している人が多いのです。不適切な表現があればごめんなさい。
10日。今日も一日晴れた。三日続いて晴れたお蔭か、夜の気温もますます上がってきたようだ。冬は晴れると冷えるような気もするが…
今日は実験室に K が様子を見に来ていた。彼の前でくみ上げてみたところ調子がおかしく、昨日動作した 75% の電圧しか出ない。パウリ効果だ…と恐れおののいている次第。と冗談を言っている場合ではなく、帰還を解放すると設計どおりの電圧が出るので、僕の担当した基盤1枚目のどこかがおかしいのだろうが。明日ゆっくり考えよう。
今日もまた hep-ph に deconstruction of dimensions の論文があがっていた(なぜこうポモ的単語ですかね)。7日に Witten は 「anomaly inflow とかは deconstruct しにくいから…」と言っているにも拘らずまさに anomaly inflow を deconstruct する話。研究は熾烈だ。と参加せず傍観している学生であった。
9日。今日も一日晴れた。二日続いて晴れたお蔭か、夜の気温も上がってきたようだ。冬は晴れると冷えるような気もするが…
ケースにつめる回路を二人で必死に半田付けす。各部のテストまで済んだので、明日くみ上げる。
胃の調子は昨日よりましだ。
Black hole が LHC で沢山見えるとすると、高エネルギー宇宙線の観測で LHC が動き出す前に沢山見えるはずらしい(PRL88, 021303)。もしこれらが全て現実になったとすると、我々はかなり大きな変革の時代に生まれたことになるが、どうでるやら。
8日。昨晩ぱらついている、と書いた直後から激しく降った。朝になるとあがっている。一日晴れていた。実験室の東の窓からみえるビルに沈む直前の夕日が丁度反射して、窓を真っ赤に光らせていた。
胃の調子はまた悪いようでもあり、よくなってきたようでもある。
7日。
一日曇っている。どうも今ぱらついているようだが。
今日はK君と秋葉原へ行って、帰りに何故か湯島の天神さんに寄った。
Witten が hep-ph に論文を出していたので少し驚く。Deconstruction が流行りはじめているか。
6日。今日は昨日と違って雲の一片も無い抜けるような青空が一日つづいた。
特になにをする気もおきず、うじうじとしている。
夕方から例の木の下に行ってたたずんでみたりするが、僕にはもはやいかんともし難く。
5日。
正月気分は吹き飛んでしまったものの、かと言って何をする元気が出るわけでもなく、また一日だらだらと過ごす。
実家にいると、夜になると部屋が冷えないようにすぐ雨戸をおろし家の中に閉じこもってしまうため、夜空から遠かった。東京に戻ってかえって見る機会が増えたように思う。今日も都心とは思えない星空である。
伊予柑を食べた。
4日。
東京に戻ってきた。昨日の名古屋の大雪の影響で新幹線が10分ばかり遅れた。
京都を過ぎると地面が泥々になってくる。雪が解けたのだろう、と思っていると、車窓を流れてゆく畑のうねが光るようになったではないか。冬の畑のうねの底にだけ雪が残っていて、目に見えるには真横に来なければならなかったわけだ。
米原あたりから名古屋をでるところまではかなり積もっていた。
家を出るときのニュースでは富士が綺麗に見えていたので期待していた所、通過する頃は日が沈んでしばらくしたところで、窓の反射する車内の光景を通してうっすらと見えるのみ。
3日。昨日ほどではないが時折雪が空を舞う。
昼はいとこ一家がうちに来て大騒ぎであった。いつもは息子が東京に行っているためにがらんとしている実家も今日ばかりは狭い。一同皆そろっているところから一人抜けて隣の部屋でピアノをたたいているといとこの年少のほうが来て、置いてある楽譜を開いてこれを弾けあれを弾けと言う。ここ数ヶ月忙しくてあまり練習していなかったので曲の途中でなんども崩壊す、二人で笑う。
夜はスパークリングワインを数杯飲んだ。
はっきり言ってまるで勉強しなかった一週間だが、帰省というのはそういうものだろう。数セミ1995年 7,8,9月号の深谷先生の「4次元のゲージ理論の新展開」を読んだ。このように日本に数学ジャーナリズムが確立しているのは不思議だ。Seiberg-Witten の物理畑からの解説が、このように早い時期にどこかに出たろうか? パリティ誌か数理科学誌に出ていたかも知れぬが、当時買っていなかったし、両者とも多少数セミより専門的か、と。
2日。今朝は小雪がちらつく。淡い雪は昼過ぎまで続いた。雪雲が西からやってきて東の山へ抜けてゆく、その繰り返しだ。雪の晴れ間の空の青さを見よ。
去年の春に実家のパソコンを買ったときは internet 接続用ということでプリンタは買わずおいてあったのだが、父がこれまで使っていたワープロ専用機から乗り換えるかも知らぬということで、新年も二日目から電気屋へ行く。僕が東京で買ったプリンタより同じ値段でより良いものが買えた、同じバブルジェットなのに印刷が倍は速いのは特に驚きだ。まあ、一年以上たてばそれもそうだろう。ただ、余りに紙の吸い込みが速すぎて早速何度も紙詰まりを起こす。
恥ずかしながらまたこんなものを録音してみた。グリッサンドは難しいですね。
今日は胃の調子もようよう良くなって、食事がおいしい。